
売上はあるのに手元にお金が残らないとき、原因を「原価が高いから」「人件費がかかりすぎているから」のどちらか一方だと決めつけるのは危険です。実際には両方が絡み合っているケースが多く、先に犯人を決めて対策すると空振りに終わることも珍しくありません。この記事では、原価と人件費のどちらが主因かを数字で切り分ける考え方を、複数店舗を現役で運営するオーナーの実務目線で解説します。紹介する目安は業態・店舗ごとに変動するため、最終的な判断は必ず自店の実際の数字で行ってください。
結局、何が原因なのか——原価か人件費か、それとも両方か
原価率と人件費率は、それぞれ単体で見ると「目安の範囲内だから問題ない」と誤解しやすい数字です。しかし利益が残るかどうかを決めるのは、この2つを合わせた「FLコスト」(Food=食材原価+Labor=人件費)です。FLコストが売上高の60%前後を超えてくると、家賃などの固定費を差し引いた後の利益が薄くなりやすいというのが、複数の公開情報に共通する目安です(一次的な公式基準は確認できていません)。
原価率の計算方法や業態別の目安については、別記事「原価率、勘と経験だけで大丈夫?現役オーナーが最初に見る数字」で詳しく解説していますので、原価率そのものを深掘りしたい方はそちらもあわせてご覧ください。本記事では、原価率と人件費率のどちらが「今の利益薄さ」の主犯なのかを見分けることに焦点を当てます。
見落とされがちなのが、原価も人件費も目安内に収まっているのに利益が残らないケースです。この場合、家賃などの固定費の重さや、仕入れた食材が使い切れずに捨てられる廃棄ロス、客数・客単価の停滞といった、FLコスト以外の要因を疑う必要があります。
原価が主因のケースと人件費が主因のケースの違い
原価と人件費のどちらに手をつけるべきかは、それぞれの数字の「目安からのズレ方」で見分けられます。
| 項目 | 原価が主因のケース | 人件費が主因のケース | 両方が主因のケース |
|---|---|---|---|
| 起こりやすい状態 | 原価率だけが業態の目安を大きく超えている | 人件費率だけが目安を大きく超えている | 原価率・人件費率とも目安をやや超え、FLコスト合計が大きく膨らんでいる |
| よくある背景 | 仕入れ単価の上昇、廃棄ロス、値引き販売、メニュー原価の見直し不足 | 閑散時間帯も含めた固定シフト、忙しさに応じた場当たり的な増員、作業動線の非効率 | 原価・人件費のどちらも数字で把握せず、感覚だけで管理している |
| 優先して手をつける対象 | 仕入れ先・在庫管理・メニュー構成の見直し | 時間帯別のシフト配置・業務の効率化 | まず原価率と人件費率を分けて算出し、数字で切り分けることが先決 |
大事なのは、この表のどこかに自店を当てはめて終わりにするのではなく、「自店の数字がどのパターンに近いか」を実際に算出してから判断することです。
何から始めればいいか——数字で切り分ける4つのステップ
- 直近1〜3か月分の原価率と人件費率を、それぞれ別に算出する:棚卸ベースの売上原価と、給与・シフトデータから、2つの数字を混ぜずに出します。
- 業態の目安レンジと比較し、どちらがより乖離しているかを確認する:原価率側が大きくズレているのか、人件費率側が大きくズレているのかを見ます。
- FLコスト合計も出し、60%前後を超えていないか確認する:単体では目安内でも、合計すると膨らんでいるケースがあります。
- 乖離が大きい方を、時間帯・曜日別にさらに分解する:複数店舗を運営していると、原価率は目安内なのに利益が薄い店ほど、実は閑散時間帯までフルシフトを組んだままになっているケースが多い、という実感があります。逆に人件費率は低いのに利益が薄い店は、廃棄ロスや値引き販売が常態化していることが少なくありません。全体の平均値だけでなく、時間帯・曜日で分けて見て初めて気づく偏りがあります。
このステップを踏むと、「なんとなく人件費が高い気がする」といった感覚ではなく、実際にどちらから手をつけるべきかが数字で示せるようになります。
ソエノができる支援
株式会社ソエノでは、栃木県宇都宮市を拠点に飲食店オーナー・開業予定者向けの経営支援・DXコンサルティングを行っています。代表の添野博文自身が10年以上、複数店舗の飲食店を現役で運営しながらコンサルティングを行っているため、原価と人件費のどちらが利益を圧迫しているのかを一緒に数字で切り分けるところから伴走できることが強みです。経営改善コンサルティングのメニューで、売上分析・原価管理・シフトの組み方まで含めてサポートしています。
気をつけたいこと・よくある失敗パターン
原価だけを疑って値引きや量を減らすと、お客様が感じる価値が下がりリピートに影響することがあります。逆に人件費だけを疑ってシフトを削りすぎると、サービスの質が落ちたり、スタッフの負担が増えて離職につながったりする恐れがあります。また、原価も人件費も目安内なのに家賃などの固定費が重い、客数・客単価が停滞しているといった、FLコスト以外の要因を見落としたまま原価と人件費だけを追いかけてしまうケースにも注意が必要です。
まとめ
- 利益が残らない原因を「原価」か「人件費」のどちらか一方に決めつけると、対策が空振りになりやすい
- 原価率と人件費率は単体ではなく、合わせた「FLコスト」で見ることで見落としを減らせる
- 原価率・人件費率のどちらがより目安から乖離しているかを算出することで、優先して手をつける対象を数字で判断できる
- 両方が目安内でも利益が残らない場合は、固定費・廃棄ロス・客数客単価など他の要因を疑う必要がある
- 時間帯・曜日別に数字を分解すると、全体平均だけでは見えない偏りに気づきやすい
FAQ
Q1. 原価率も人件費率も目安の範囲内なのに、利益が残りません。何を疑えばいいですか?
A. その場合はFLコスト以外の要因を疑う必要があります。家賃などの固定費の重さ、客数や客単価の停滞、仕入れた食材を使い切れない廃棄ロスなどが典型的です。数字だけで原因が絞り込めない場合は、月次の損益全体を専門家と一緒に見直すことをおすすめします。
Q2. 原価と人件費、どちらから手をつけるべきか判断がつきません。
A. 目安のレンジからより大きく乖離している方を優先するのが基本的な考え方ですが、両方が近い水準でズレている場合は判断が難しいこともあります。自己判断が難しいときは、無理に決めつけず、外部の視点を交えて数字を確認することをおすすめします。
Q3. FLコストの目安「60%」はすべての飲食店に当てはまりますか?
A. 断定はできません。FLコスト60%前後という目安は複数の公開情報で共通して見られる水準ですが、業態や立地、経営スタイルによって適正な内訳は変わります。自店の目安を知りたい場合は、業態別のレンジを踏まえたうえで、最終的には自店の実際の数字で判断する必要があります。